現場の想い

現場の想い

法人の創設者である理事長の半明晃二さんと、平成15年の施設開設時より勤務し、特別養護老人ホーム及びケアハウスまごころ半明原施設長の駄賀健治さんに「法人の理念について」というテーマでお話しいただきました。(平成28年7月の対談記事)

地域のニーズに応えた理念を発信し続ける

施設長 : 会社でも公益法人でも、組織には必ず運営理念というものがありますよね。福祉という大事なことでありながら、その定義がわかりにくい事業を担う社会福祉法人にとって、その理念を常に発信し続けることはとても重要なことだと考えます。理事長はどのようにお考えですか?

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理事長 : 私も組織の運営理念というものはとても大切なものだと考えます。経営者の皆さんは組織を立ち上げる場合、その組織の運営理念を考えるにあたり、大変悩まれると聞きますが、私の場合は、地域のニーズをまとめたら理念になったという感じです。地域の方々の要望を聞いていたら、福祉施設の必要性を感じた。そして、そのために社会福祉法人を作った。社会福祉法人、社会福祉施設を運営する我々が地域の方々のために何ができるのか?これを考えたら理念となったのです。

施設長 : 理事長は開業医でもあり、高齢者を中心とした地域の方々の要望をたくさん聞いてこられたと思います。その中で生まれた理念ということですね。

理事長 : そのとおりです。理念のひとつ目に「我々は、利用者が家庭的な雰囲気の中で安心して自分らしく、尊厳あるこころ豊かな生活が送れるように努めます」と掲げております。だれだって本当は住み慣れた自宅で自分らしく最後まで暮らしたいものです。それがさまざまな理由で、自宅での生活が困難になり、施設に入る必要がでてきます。私の患者さんにもそういった理由で施設に入所されていった方が、以前はたくさんおられました。みなさん「本当は家で暮らしたいんじゃがのぉ・・・。」といいながら施設に入って行かれました。施設に入ったら今までの暮らしは我慢しないといけないのでしょうか?そんなことは無いと思います。在宅での自分らしい生活を継続するお手伝いをすることも我々の役割でありますが、施設に入っても、体が不自由になっても、認知症になっても、今まで通りの暮らしができるように可能な限りお手伝いをさせてもらうのが我々の役割ではないでしょうか?

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施設長 : ケアハウスは、まさにそんな理念を実現させるための施設ですよね。ケアハウスのご入居者はみなさん思い思いの生活をしておられます。元気な方は自家用車を運転して外出したり、畑仕事をする方もおられます。一方、常時車イスでの生活ではありますが、訪問介護やデイサービスなどの外部サービスを利用しながら、自分でできることは可能な限り自分で行いながらここで生活したいと、長年ケアハウスでの生活を続けておられる方もいます。心身の状況の異なる入居者が一緒に暮らすわけですから、職員の対応等、調整が難しい部分もありますが、自分らしい生活を継続していただくためには必要な努力ですよね。
二つ目の理念「我々は、利用者が安価な費用で満足のいく生活が送れるように努めます」も、軽費老人ホームともいわれているケアハウスのためのような理念ですが、これも、もともとは患者さんの声ですよね。

理事長 : そうです。ひとり暮らしが不安な方が、施設に入りたいが、特別養護老人ホームはどこも百人待ち、民間の施設はどこも高額で入れないといった声が多くありました。今でこそサービス付高齢者住宅等、比較的安価な高齢者向けの住居が増えてきましたが、当時は安価でかつ元気な高齢者向けの住居と言えば、ケアハウスくらいしかありませんでした。一人暮らしは不安だけど、常時介護が必要なわけではなく、見守り程度があれば生活できる。しかし、高額な有料老人ホームに入ることができるほど裕福なわけではない。そんな方々のためにケアハウスが必要と思ったのです。

施設長 : 確かに安価でありながら、住居と食事と見守り及び相談援助の機能を備えたケアハウスは、地域の高齢化が進む中、今後もさらに必要となると思います。ただし、高齢者が増加し、また、そのニーズも多様化してきておりますので、これまで以上にサービスも多様化していかないといけないでしょうね。「安価な費用」かつ「満足のいく生活」を理念に掲げているわけですから。

利用者の声にならない声に耳を傾ける

− ケアハウスのご入居者のニーズは分かりやすいのですが、特別養護老人ホームのご入居者についてはどのようなニーズがあると思われますか?

理事長 : ケアハウスでも特別養護老人ホームでも考え方は同じです。家庭的な雰囲気の中で、安心して自分らしく尊厳のあるこころ豊かな生活を安価な費用で提供して、満足してもらえばいいのです。そもそも特別養護老人ホームは地域の方々の声ももちろんありますが、ケアハウスの方のニーズを具現化したものでもあります。ケアハウスを開設して、五年が過ぎた頃、入居者の方々の高齢化が進み、今度はケアハウスでの生活も難しくなり、退居していく方が増えてきました。ケアハウスでの生活に慣れ親しみ、友達もたくさんできたのに、また、よその施設に行かなくてはならない。

施設長 : 他の施設間とのネットワークができていたので我々も転居先を探すことに困るということはあまりありませんでしたが、寂しそうに施設の玄関を出ていかれる退居者を見送るのはつらかったですよね。しかし、介護の機能の無いケアハウスでの生活には限界があります。自宅に帰るというケースはまずなく、ほとんどがグループホームや他の特養に移られました。

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理事長 : では、そういった方々のニーズのために自法人で特養を併設したら良いではないか、ということから始まった話でしたよね。結局、すべてはニーズありきだと思うんです。ただ、普通のサービス業とは異なり、医療や福祉というのはニーズが潜在化していることが多いので、我々が掘り起こしていかないといけない。病院には行きたくない、介護は受けたくないという人はたくさんいます。でも、本当は必要だけど、声に出さない人、自分で気づいていない人がたくさんいるのです。その声にこたえていくことが我々の役割だと思うのです。

施設長 : そして、平成26年の5月に特別養護老人ホームをオープンすることができました。ケアハウスのご入居者も何名か入居され、ケアハウスからお友達が特別養護老人ホームに面会に行く、という景色も日常的になりました。家庭的な雰囲気の中で自分らしい生活を継続していけるよう個室のユニットケア(※)になっています。

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理事長 : ユニットケアというものについては、私も当初は迷いがありました。やはり、費用的に高くなりますから。しかし、現在、国の方針としてはユニットケアを推奨していますし、個別ケアを実施するためにと考え、取り組んでみました。職員の配置等、難しい部分もあるようですが、職員の皆さんが頑張ってくれているので良いケアができているのではないかと思います。

※ ユニットケアとは、できるだけ自宅での暮らしに近い環境で、個別にケアを行う介護のスタイルです。ご入居者の個室のお部屋と居間にあたる共有スペースで暮らします。十人前後の入居者を1つのユニットとして、決まった介護スタッフが入居者に合わせたケアを行います。同じスタッフが同じ入居者を担当することで、より入居者に寄りそった介護ができるとされています。

地域とともにある施設になって欲しい

施設長 : 最後に三つ目の理念「我々は、利用者が地域社会とのつながりを大切にしながらの生活が送れるように努めます」についてですが、理事長は、廿日市市で生まれ、廿日市市で育ち、廿日市市のために、これまでも多方面で活躍されてきました。この「地域」というものに対しては強い思いがあるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

理事長 : たしかに私は廿日市にとても愛着を持っております。私事になりますが、福祉施設を作ったのは私を育ててくれた地域への恩返しという思いもありました。しかし、今では、まごころ半明原は地域の大切な社会資源の一つです。地域の皆さんに愛される施設になってほしいと考えております。私がそうであるように、地域のみなさんも地域社会を大切に考えておられると思います。そして、それは施設に入ってからもそうであってほしいと考えます。施設に入ったからといって、地域とのつながりが無くなるべきではないはずです。施設が地域とのつながりを大切にし、地域に愛される施設になり、そしてそれにより、入居者も地域とのかかわりを継続していくことができる。そんな好循環が生まれてほしいですね。

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施設長 : 私も同じ思いです。施設の入居者、デイサービスの利用者だけがお客様であると思いがちですが、地域の方々すべてがご利用者であるという考えを持っていないといけないですよね。常に地域の方々と接していないと、福祉のニーズは分からないと思います。
 やはり、理念はニーズから生まれるという話に戻りました。我々はこれからも福祉のニーズをくみ取って、それに基づいた理念を地域に発信し続けて、いかなければならないですね。

理念に立ち返り、行動する

理事長 : そうです。そして、もう一つ大切なことは、法人の理念というのは、外部に発信するだけでなく、そこで働く職員にとっての行動指針でもあるということも忘れてはいけません。

施設長 : 理事長や私は、法人や施設全体を、長期的、大局的に見る必要があり、理念に基づいた考え方をすることに慣れていますが、現場の職員は、日々の細かな業務の中では忙しさに追われ、理念に基づいた考え方をつい忘れてしまいがちです。自身の行動は理念に基づいているかと時々見直し、また、判断に迷ったときはその判断のよりどころとするように日々、理念を念頭にしておく必要があるということですね。

理事長 : 理念を共有し、各職員が法人の目指す姿を理解し、自分の役割を認識し、地域のために最高の価値を提供するための行動ができればよいと思います。そうすれば、地域も職員もみんなが幸せになれますから。

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